重粒子線治療装置
粒子線治療においては、保険適用の課題も重要である。現在、粒子線治療は保険適用外である。したがって、全額患者の自己負担であり、一連の粒子線照射につき288万3千円になる。それ以外の入院・検査費用等については健康保険適用になるが合計すると300万円を超す大きな負担である。これだけ高額の治療を受けることが出来る方は、それだけで人数が限定される。しかし、これを保険適用にすべきかというとそれはまた別問題である。例えば、小児がんや、頭頚部がん、頭蓋底がんなどを保険適用にするなども一つの方策かもしれないが、これは国の課題である。
神奈川県でも今、粒子線治療装置の導入が検討されている。群馬大学医学部で来年導入予定の重粒子線装置と同型のものを検討しているようであるが、導入費用は125億円あまりである。陽子線の場合、年間600人あまりの患者数で収支均衡に、重粒子線の場合には1000人以上の患者数でないと赤字化するということであるので、神奈川県で1000人以上の患者を治療することが出来るのか、慎重に検討しなければならない。 治療効果の面で、陽子線と重粒子線とで大きな違いがみられないということも、冷静に受け止めなければならない。県立病院の独立行政法人化が現実のものとなろうとしている今、コストについてはシビアに考えなければならないからである。また、現在進歩が著しい放射線治療装置リニアック導入で間に合うのかどうかということも考えなければならない。リニアックは、X線や電子線などの放射線を当てて治療する機器である。X線を体に当てるという点では、体内の画像を撮影するX線診断装置と同じであるが、使用するエックス線のエネルギーを高くすることで、治療効果を持たせるものである。神奈川県立がんセンターに導入されている機器は3億円あまりであるが、今最も優れた機器で10億円程度、粒子線治療装置導入と比較するとその導入コストは1/10である。私がこれまで接した多くの放射線科医師によれば、リニアックの治療効果も大変優れてきており、100億円以上かけての重粒子線治療装置導入はいかがなものかという意見も多く耳にする。したがって、なぜ、どういう効果を狙い、リニアックだけでは駄目なのか、また運営コストについても詳細な分析が必要である。また、仮に重粒子線治療装置を導入するのであれば、中心になる医師、すなわち粒子線医療センター長なる人物は誰なのか(県立がんセンターと独立させるか否かの検討も不可避である)ということも重要であるし、放射線技師の人材育成なども大変に重要である。箱を作ることが目的ではない。
三菱電気製の治療装置
がん対策全体を考えた場合、限られた予算の中で最も大きな効果をあげるには何をすべきか、いかなる場合でも県会議員である私は冷静に判断をしなければならない。繰り返しになるが、なぜ陽子線でなく重粒子線を導入しようとしているのか、あるいは粒子線ではなくリニアックでは駄目なのか、ということをしっかりとした医学的なデータに基づいて冷静に考えること、また採算性など、財政的な観点からもしっかりとした検討が必要である。県立がんセンターは放射線、病理、画像診断など中央部門の医師の確保に大変苦慮している。医師の増員など私は繰り返し訴えているがなかなか実現しない。また、都道府県がん診療連携拠点病院として、地域がん診療連携拠点病院の医師・看護師の人材育成など重い責任も負っている。今後、県立病院の独法化を前にして、目指すべき具体的な目標がなければ過剰に財政的な負担をかけることは許されない。神奈川県として重粒子線導入を考えることについて、敢えて冷静かつ慎重に考えるべきかも知れない。今後、いくつかの施設を訪問しながら、私自身も見識を深めて行きたい。







