兵庫県立粒子線医療センター
全国自治体で初めて粒子線治療を開始した医療機関である兵庫県立粒子線医療センター(菱川良夫院長 兵庫県揖保郡新宮町)を訪問した。新幹線・山陽本線の相生駅から車でおよそ20分、緑豊かな播磨科学公園都市の中にあり、世界最大級の大型放射光施設(Spring-8)と隣接しており、同施設の高度診断機能も活用している。陽子線と炭素(重粒子)線を備えた世界で唯一の施設である。建設費は総額280億円あまり、1994年から臨床試験を開始し、2003年からは一般診療が開始された。
そもそも粒子線治療とは、陽子線・重粒子線を用いた治療のことである。陽子線・重粒子線は、X線と比較をすると、体表面より体の内部で放射線量が最大になり、がん病巣よりも深いところには放射線が達しないという特性を持つ。従ってピンポイントで重点的にがん病巣を攻撃することが出来、しかも副作用などの患者への肉体的な負担もない。陽子線は、X線照射と同程度のがん細胞殺傷能力であるが、重粒子線はX線よりも強い殺傷能力を持つ。従って、より大きな腫瘍には重粒子線照射が優れているとも言われる。
重粒子線治療装置
現在、医師7名、放射線技師11名で治療にあたり、午前9時から17時半までの治療時間内で、60〜70人の治療にあたる。昨年1年間(2007年1月〜12月)で、一般診療(つまり臨床試験を除く)590人の治療を行った。内訳を見ると陽子線465人(頭頚部がん・頭蓋底腫瘍71人、肺がん37人、肝がん63人、前立腺がん222人)、炭素(重粒子)線125人(頭頚部30人、肺がん25人、肝がん24人、骨軟部腫瘍27人)などで、比較的特定のがんに限定されている。胃がん、大腸がん、膀胱がんなどは臓器そのものを損傷する可能性があるとのことで、基本的に粒子線治療は行われない。2003年の一般診療開始からこれまでの7年余りで合計患者数は2000人余りである。これを多いと見るか少ないと見るか、その評価はともかく、これまで治療に当たった前立腺がんは生存率100%、すい臓がんでも発病から3年を越している患者もいるということで、大変驚異的な結果を残している。陽子線と重粒子線による治療効果にはそれほど違いはないとのことである。しかし一方で、粒子線治療を行った場合でも、やはり再発はあるということである。そこで、治療後の経過観察を重要視し、5−10年間は腫瘍の再発がないか、照射部位に副作用がないか定期的に確認するため、紹介元病院や地元の病院などで検査を行い、「患者カルテ」を用いた経過観察を行う。問題発生時には、いつでも電話相談に応じ、来院して今後の方針を検討する。一般に、がん再発の場合、手術が困難になるケースが多いのと同様に、粒子線での治療も困難になるケースが多いようである。
平成16年度に、放射線医学総合研究所(千葉県千葉市稲毛区)が推計した数値によれば、対象部位のり患者数468,180人に対して適応患者数は32,977人とのことで、適応患者/り患者数はおよそ6.8%とのことである。つまり、粒子線治療は、局所に止まる比較的初期の患者には極めて優れた効果を持つが、患者誰もが利用できるかというと、実際はごく少数の患者しか利用することが出来ない。そのことを菱川院長に問うたところ、明確な回答はなされなかった。その代わり「外科医は将来減少することが明白である。外科に変わる治療法として必然的に粒子線治療のニーズが高まらざるをえない」「現在、医師側の重粒子線への偏見がまだある。なかなか自ら患者を送ってきてくれない。あくまでも患者の側から懸命にアピールして、粒子線治療を受けたいということを医師にお願いして初めて、治療が受けられる」とのことであった。今後は局所に止まらない腫瘍や、複数の臓器に跨る場合、あるいは再発の場合などへの対応をどうするか、これをクリアしなければとても適応患者を増やすことにはならないであろう。







